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『攻殻機動隊 ARISE』公開決定によせて――なぜ『SAC』ではないのかについて

士郎正宗の『攻殻機動隊』を原作とする新たな『攻殻機動隊』が製作されるらしい。

攻殻機動隊 ARISE
攻殻機動隊 : 新作「ARISE」は全4部作 草薙素子役に坂本真綾、新キャスト発表

『攻殻機動隊』といえば士郎正宗の代表作であり、メディアミックスとして押井守監督の代表作であり人工知能と人間の持つ自我との境界線を探ったサイバーパンクSF作品『GHOST IN THE SHELL』、神山健治監督による草薙素子やバトー達が所属する公安9課の活躍を描いた『STAND ALONE COMPLEX』などがある。


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神山健治監督の『STAND ALONE COMPLEX』の際には「この作品は第三の攻殻機動隊」と言われていたことからいえば、今回の『ARISE』は言うなれば「第四の攻殻機動隊」という位置づけになる。
監督は黄瀬和哉が努め、シリーズ構成や脚本周りは冲方丁が手がけるなど、スタッフ面では今までの攻殻機動隊を考えると驚くようなスタッフであり、キャストという意味でも草薙素子が坂本真綾である事をはじめ、全てのキャストが変更されているなど、「今までとは違う攻殻機動隊」という位置づけで製作されているように感じるのだが、その一方でファンの反応はよく言えば賛否両論、という状態のようだ。

『攻殻機動隊ARISE』 先行PV公開! 劇場上映4部作で第1部は6月22日限定上映スタート

個人的な見解を言わせてもらえば、今回の『ARISE』を批判している人達は見当違いな批判をしているように思う。
まず前述したように『攻殻機動隊』という作品は士郎正宗の手がける原作、押井守の手がける映像化一作目、神山健治の手がけた映像化二作目。どれも違う物語であり、どれもが『攻殻機動隊』であるというコンテンツとなっている事を理解しておきたい。
そしてそこを踏まえた上で今回の『ARISE』を叩いている人達が何を根拠に批判しているかというと、おそらく彼らが見たかったのは神山健治の『攻殻機動隊』の新作なのだろう。上記のスレでもそういう話が出ているし。

ただ個人的には「もう神山健治の攻殻機動隊は作られないんじゃないか?」と思っている。
これは「神山健治自身が作る気がない」というわけではなく、むしろ作品を取り巻く我々の住んでいる現実世界での変化の面が大きい。
神山健治が『STAND ALONE COMPLEX』を世に送り出してから11年という月日が流れたわけだが、11年の間に我々の生活は大きく変化している。
例えば個人用通信端末として誰もが一昔前なら小型のPCと言っても差支えがないスペックの端末を持ち歩き、日本全国で大体の場所から通信端末を用いてネットへアクセスしているし、ネットの世界だけでの交友関係というのも中には存在しており、そして遠隔操作犯のようなネットを利用し周囲を撹乱する人員も出てきている。
我々の世界は『SAC』が世に登場した11年前とは比較できないほど変化している。
そしてそんな11年の間に我々の世界は『攻殻機動隊SAC』が描いた未来世界とはさほど変わらず、部分的に見るならあの世界で描かれた技術は普遍的なものとなり、そして『SAC』の中では描かれなかった問題が登場している。
『SAC』10話ではインターネット上の空間を利用し、「笑い男とは誰なのか?」ということを一話丸々使って展開していたが、Ustreamやニコニコ生放送などはまさしくそういう場所だろう。
しかし我々の世界ではあの場所がユーザーが勝手にやっている場所ではなく企業がそういう場所を利用し、中には政治家ですらそういう場所を利用して議論の場所としようとしている。
そういう意味では「インターネットを利用した議論」というものは我々の世界のほうが圧倒的に進んでいる技術だといえ、部分的にはおそらく『SAC』を凌駕しているといっても問題ないだろう。
同じ事は同じ監督の『東のエデン』を見てもいえるだろう。
『東のエデン』は『攻殻機動隊SAC』と地続きな世界らしいのだが、あの世界で描かれた「東のエデンシステム」というものは我々の世界で言えばTwitterやFacebookなどのSNSのことだし、『東のエデン』でも描かれた目の前に発生した問題を解決するためにSNSで問題を共有化し、集合知によって問題を捉え、解決手段を模索するという事は我々はもう既にやっている。
あの世界は2010年が舞台だが、我々は2010年以前にそのことを既に実践していたわけであり、『東のエデン』というフィクションは作中で描かれた技術ですら既に過去の空想技術となっているといってもいい。
我々の住んでいる世界はそういう「部分的には一昔前のフィクションを超えるほどSFな世界」なのだ。

さて。そうして考えていくと今『SAC』を作らない理由としてはおそらく「現実的になりすぎる」ということはあるのだろう。
なにせ11年前のフィクションが部分的には既に民間レベルで使われているのだから現実的にならざるをえないし、神山健治がお得意とするテロリズムや政治劇なんかも、おそらく今の技術を用いた全く異なる物を見せたとしても「現実の延長線にある技術」を用いた「現実的な話」を「現実的な見せ方」でみせてしまうという事になりかねない。
それは虚構とはいえ、それはある種「剥き出しの現実」といってもいいものであり、それを「エンターテイメントに落とし込めるのか?」という問題が存在している。
私見になるがおそらく「剥き出しの現実をエンターテイメントに出来るか?」といわれると答えは違うだろうし、そういう「剥き出しの現実感」を描こうとしていた『009 RE:CYBORG』は「どこにも所属していない009チームだからこそ、エンターテイメントに見せかけること出来た」と思っている。
まああの作品は脳内現実の話だし、「俺たちの戦いはこれからだ!」以前の「そもそも俺達は誰と何で戦えばいいんだろう」という段階でとどまっているので、明確には終わっていない作品だと思うのだが、まあこの話は全く関係ないので割愛するが、どれだけフィクションであることを強調しようとも、「神山健治」という人間の作家性というものが「現実と地続きである」ということを起点に始まっているのだから、完全に日本を舞台にしてしまう『攻殻SAC』という物語はどれだけフィクションであることを強調しようとも、我々にとっては「高い確率で有り得る現実」を見せられる可能性は否定出来ないし、そしてそれはフィクションであればあるからこそ現実を超えるほどの恐ろしいものを描いてしまう可能性もある。
そう考えていくと、『攻殻機動隊SAC』の新作が作られない理由も合点がいくのではなかろうか。

俺は『攻殻機動隊』シリーズは大好きだし、押井守版も神山健治版も愛してやまない人種だが、今回の『ARISE』はそういう意味では「完全新作」で「第四の攻殻機動隊」と言い切ってくれたことは正直なところ嬉しい話だと思っている。
もっと言えば俺は『ARISE』全面支持だし、ものすごく期待している。
これは既にアナウンスされている通り「今の技術を組み込む」という「部分的にフィクションを超えた技術」が「フィクションで発展した形で見せられる」ということもあるが、脚本周りを一手に手がける冲方丁の本質――「現実に向き合ってに打ち克とうとする」というものに対する期待が大きい。
だからこそ黄瀬監督には批判に負けずに頑張って欲しいし、『ARISE』はこの「フィクションを部分的には凌駕しているといえる現実」に「打ち勝てる物を描いてほしい」し見せてほしいと思っている。
何にしても第一弾は6月に公開なので、6月まで楽しみにしておきたい。

ところで坂本真綾を素子に据えておきながら「キャスト一新!」とかいう見出しをつけた人は誰だ!
黄瀬監督の今のところ唯一の拘りらしいから、「素子が坂本真綾なのに一新?」というコメントは飲み込むけど、あの見出しはちょっとダメなんじゃないかと思う部分があるわぁ。
あ、デザイン面では素子の持つ「神秘性」というか「年齢不詳」な感じが出ていていいと思います。


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