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『ラブライブ』八話の「何がしたいのか」という問いかけと無音の演出について

アニメ版『ラブライブ』八話が素晴らしい出来だった。
今までもPVの頃に挿入されていた日常のエピソードを盛り込んできたりとファンサービス的な面白さは随所に見られたが、一話丸々『僕らのLIVE 君とのLIFE』をセルフリメイクともいうべきことを行い、シナリオと組み合わせてくるとは恐れいった。
まあライブの演出とPVの演出は似ているようで違うものなので、今回の映像はセルフリメイクと言うよりは「ライブ風に再演出した」という方が正確なのではないかと思うのだが、何にしても今までやってきたことを象徴するような面白さであり、まさしく一つの集大成というべき内容だった事は間違いないだろう。

もちろん今回の八話が素晴らしいのはそれだけではない。
映像作品として高い完成度を持って面白さを演出してのけたわけだが、特筆すべきはやはり「あなたは何がしたいの?」という問いかけから始まる「自分の本質と欲望に向き合う」という事だろう。

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「これがお姉ちゃんのやりたいことなの?」
「えりちの、えりちの本当にやりたいことは?」

こうした「自分は本当は何がしたいのか」という問いかけは、自分の本質や根源的な願いと否応なく対峙させる。
例えば『トップをねらえ2!』三話では「自分の力を信じられない者」であるチコに主人公のノノは「あなたは何がしたいの?」と説教するというシーンがあるが、これはチコ自身の本質に向き合い「トップレスだった自分では救えなかった」という自身の原点に立ち返ることでチコは自分自身の「本当にやりたいこと」を取り戻す。
同じガイナックスでは『ヱヴァ破』でも同じ文脈が見られ、碇シンジは「自分自身が本当にやりたいこと」を見つめなおし、「綾波レイを救う」という目的のために自発的にエヴァンゲリオンに乗り込み戦いを挑む。
この「あなたは何がしたいの?」という問いかけは立場や周囲の視点などを無視し、「自分自身の根源へと向き合わせる」。


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「何が原点となって今その場所に立っているか?」ということもあるし、もっと単純に「出来る・出来ないではない『何がしたいのか』」という部分にまで自分自身に没入させる。
絢瀬絵里という人物は希が暴き立てたように、周囲の期待を背負い生徒会長であるとする存在である。
故に生徒全体の代表であろうとするし、だからこそ彼女はある種の正しさをもつ。しかしそこに彼女自身の本当の意志は存在しない。
言うなればあの時点での絢瀬絵里という存在は「期待に応え続けるためだけの存在」となってしまっている。
そこに彼女の問題があるあるのだ。
思えばアニメ版『ラブライブ』はこの「本当にやりたいこと」というものと向き合い続ける話をし続けている。
一話では海未・ことりを説得し仲間に引き入れながらもアイドル部として動かすできなかったし、三話では観客が全くいないというステージを作り上げた。四話ではアイドルに憧れながらもその性格から踏み込めなかった花陽を描き、アイドルとして一度挫折したにこを「本当はアイドルになりたい」ということをしっかりと確実に描いていたのである。
一話ではこんなに対し「やるったらやる」と言い切り、三話では「やりたいからです!」と即答する。
なぜ即答できるのかといえば、やはり彼女自身の「やりたいこと」がその程度ではぶれないほど「やりたいからやる」という事を貫いているからだ。
だからこそ理事長は彼女達を見て、「自分のやりたいことをしている」としてアイドル活動を応援するという構図が成立するのだが、一方でμ'sに対立する存在として描写されていた絢瀬絵里は止められ続けており、そして絢瀬絵里自身もそれに対して募るだけで行動しようとしない。
穂乃果達は誰に反対されても「自分が本当にやりたいからやり続けている」のに対し、あの時点での絢瀬絵里は理事長に反対されただけで止まってしまう。
この事は絢瀬絵里がダンスの指導を求められ、μ'sのメンバーのトレーニングに付き合っているシーンのやり取りで極まった感がある。

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「辛くないの? 昨日あんなにやって、今日また同じ事をするのよ? 第一上手くなるかどうかもわからないのに」
「やりたいからです!確かに練習は凄くきついです。体中痛いです。でも、廃校を阻止したいという気持ちは生徒会長にも負けません!」


ここに両者の違いがある。この違いは決定的とも言える差である。
「本当にやりたいことをしているのだろうか?」という問いは自分の根源や本質と向き合う問いかけだと書いたが、そういう意味では絢瀬絵里という存在は「自分自身と向き合っていない」し、「期待に応え、役割を演じる」というだけで、自分の本当の気持ちにも気づいていない。
この「自分の本当の気持ち・願いに気づいていない」という事こそが彼女の抱える問題であり、そして今回妹であるアリサや友人である希が暴き立てたものの正体なのである。
そして「あなたは何がしたいの?」という問いかけがもたらしたのは、一話から今までの間ずっと描いてきたμ'sメンバーが挑んだ問いかけの集大成でもある。
そしてそこに最後の一人であった絢瀬絵里が挑んだ。それが八話なのである。
結果として絢瀬絵里は自分自身の本質や根源と向き合い、自分自身の願いを、本当にやりたいことを見つけた。

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「今更アイドルをやりたいなんてそんなこと言えると思う?」

この台詞こそが絢瀬絵里という人物が持つ、嘘や強がりが一切ない本当にやりたいことなのだろう。
「特に理由なんか必要ない。やりたいからやってみる。本当にやりたいことってそんな感じで始まるんやない?」という台詞もまた「やりたいこと」を見つけたからこそ、絢瀬絵里という人物に対する福音となる。
だからこそ高坂穂乃果は絢瀬絵里をμ'sのメンバーとして勧誘するのである。
そうして考えると、今まではほぼ全て新曲で固めていたのにここに来て『僕らのLIVE 君とのLIFE』を持ってきたのも頷ける。
「答えなくてもいいんだ。分かるから。胸に描く場所は同じ」
絢瀬絵里が何を考えて答えを出したのか。そのことを聞かなくとも、あの場に揃った九人の想いは同じであることを全員が理解している。そして彼女達は同じ想いの九人で「羽ばたいていく」。
『僕らのLIVE 君とのLIFE』が今回採用されたのは「ラブライブというコンテンツの始まりの楽曲」であることもあるだろうが、この歌詞のリンク具合からくるものもあるのだろう。

また今回のドラマは脚本の面白さもさることながら、その挑戦的な演出についても触れておくべきだろう。
今回のドラマを盛り上げるのに大きく貢献した演出としては「無音」が上げられるだろう。
「絢瀬絵里が希に自分の問題を突きつけられた後、μ'sの面々が登場する」というカットでは殆どBGMが使われていないのである。
具体的にはこのカットから

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このカットまで。
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この間はBGMも流れないし絵里が少し喋るぐらいのもので、穂乃果登場後から絵里が喋りだすまでは一切喋らないという「音を使わない」という演出をしている。
アニメにおける音というのは極めて重要なものであることは言うまでもないことだが、おそらく「無音」という事をやったアニメは早々無いのではないかと思う。これは俺の印象論だけど、BGMは流れていなくても何かしらの音が入っているはずだ。
なぜ無音を使わずに必ず音を入れるのだろうか。
度々引用するが押井守は自身のメールマガジンにて「アニメにおける音の役割」をこのように語っている。

>>それはアニメーション特有の事情なんだけど、感情というか情緒を音楽で補完しないと成立しないんだよ。
>>だから実写以上にアニメーションは音楽が重要だし、たくさん使うんだよ。

>>俺はそれを斯波(重治)さんに教わった。俺が「ここは音楽流したくない。一番気分が盛り上がってる、感情が盛り上がってるときに逆に音楽を入れないで欲しい」って言ったら「そうしたい気持ちはよくわかるよ。でも押井ちゃん違うんだよそれは。残念ながらアニメーションというのは音楽で情緒を補完してあげないと成立しないんだよ。試しにやってみようか?」って言われて、実際、音がなくなって愕然とした。「あ、アニメーションの持ってる情報量ってこんなものなんだ」というさ。

アニメにおける「音」というものの立ち位置はあんまり明かされないことが多いのだが、少なくとも押井守は「元々少ない情報量のアニメにおける情緒を補完するもの」であり、「音を流すことでようやくアニメは『映像作品』として成立する」とアニメの音の立ち位置をそう定義付けている。
この押井守の語る音の立ち位置を踏まえて、アニメ版『ラブライブ』八話の無音を見ていくと、確かにあのシーンだけ見れば情緒が欠けた映像になっているし、南條愛乃の演技があったとしても「情緒がある」とはとても言いがたい。
はっきり言えばあのカットにおいて「絢瀬絵里がどういう気持ちなのか」ということは全くわからない。ましてやその直前のシーンで「涙を流すほど感情を爆発させている絵里」を描写しているのだから、このシーンで音を出さなかった事は、「あの段階での絵里がどういう気持ちだったのかを察することが不可能になっている」といっても過言ではない。
ではこの無音の演出は失敗なのだろうか?
いや失敗ではなくむしろ成功の類だろう。それも大成功といってもいいぐらいに。
確かにあそこだけ見れば「音を出さない」という判断は失敗だったように見えるだろう。
しかしあそこで「絵里で音を持って絵里の感情を表現してしまう」ということは、絵里自身の決断の重みが薄らいでしまうのではないかと個人的には思う。
義務感に縛られ、自分のやりたいことを封じ込めてきた絵里が「自分のやりたいこと」を決断し、行動する。
そこに重点を置くのであれば、あそこで「無音にして絵里の感情を理解できないようにしておく」という手法は冒険的ではあるにせよ、正しいのではないだろうか。
少なくとも俺はあの無音演出は「理解できない→理解できるようになる」というカタルシスが発生していて、非常にいい効果を生み出したように感じ取った。
この演出自体は真似できるようなものではないが、監督であり今回の演出と絵コンテを手がけた京極尚彦監督はよくそんな冒険的な事をやったものだと感心するし、それを止めなかった長崎行男音響監督も素晴らしいものを創りあげてくれたものだと称賛を送りたい。



ところでタロットカードの星の逆位置は「失望」や「高望み」を意味する暗示があるわけなのだが、九人揃ったμ'sはどうだろうか。
人々を失望させているだろうか? はたしてアイドルとして頑張ることで廃校の危機を遠ざけることは高望みだろうか?
いいや違う。彼女達は立派なアイドルとしてここに誕生し祝福されている。
おそらく「廃校を阻止する」という望みも既に高望みではないことだろう。
それに彼女達はもはや廃校が決まっても止まることはないだろう。
一話から八話まで「あなたが本当は何がしたいの?」という問いはもはや意味を成さない。
彼女達が何を見つけたのかはこの表情が全てを物語っているのだから。

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8件のコメント

[C1128]

彼女たちがやりたいことを明確に保持できたのは、
自分のために何をするべきか、よく考えるべき
という絵里の言葉が前提としてあったんだろうなぁと思うと、感慨深いですね。
# そしてこれがもう8話の伏線そのものになっているという恐ろしさ

これが結果、μ'sとして成長したところをみるに、
彼女がただの反面教師ではなく、
不器用に語るお父さんのような存在として描き切っている。
ホント、よく練られていると思います。

[C1129]

ようするにこのアニメで題材となってるのは
カントやロールズの哲学。
リベラルな自由の定義と道徳論でしょ
この作品はリベラル思想を
アニメみたいなサブカル視聴者でも
わかるように、わかりやすく描いてるだけでしょ

[C1130]

>>不器用

そういやOPでも「本気でも不器用ぶつかり合う心」という歌詞が出てくる辺りに、最初からこの辺りまで織り込み済みだった感があって悔しいところ。
『僕らは今のなかで』はまさしく主題歌ですのう。

>>リベラル

言ってることを否定するつもりはないですけど、「説教臭く見せない」「物語の中にちゃんと折り込む」といった見せ方の工夫に対するしてんが抜け落ちている時点で、あなたの指摘は失礼な言い方になりますが片手落ちなんじゃないでしょうか。
「小難しい理屈」を「小難しく見せない」「説教臭く見せない」というのが作劇でありエンターテイメントであると個人的には思いますし、あなたが「だけ」とする「分かりやすく描く」ということについても、もうちょっと認識を改めたほうがいいんじゃないでしょうか。
あと不躾ながら言わせてもらうと、「無条件に上から目線で物を語る」というのはやめたほうがいいんじゃないですかね。

  • 2013-02-27
  • 水音
  • URL
  • 編集

[C1146] 承認待ちコメント

このコメントは管理者の承認待ちです

[C1255]

はじめまして、ラブライブ最終回で
私が感じたことを見事に原語化してくれたことに感銘を受け
それ以降ちょくちょくブログを拝見させてもらっています。

ただ8話の記事を読んで、水音さんのドラマ面の考察に納得し
演出に関する考察はなるほどと思いつつも
アニメ本編の絵里の心の変化が雑に描かれた感は拭えませんでした。
花田先生も絵里はなかなかデレてくれなくて大変だと言っていたので
「ぼららら」のセリフリメイクという力技で誤魔化したのかなと最初は思いました。
でも、あれだけ丁寧な最終回を用意したスタッフが
そんな安易なことをするとはとても思えないんですよね。
それで悩み続けた結果、ようやくしっくりくる考えに至ったので
よろしければ聞いていただければと思います。



一番引っかかったのが、
バレエをやってた子の「やりたいこと」が本当にアイドルなのかという点です。
絵里が穂乃果たちに心を揺さぶられるところまでは分かるけど
だからって「アイドルをやりたい」ってなるとは思えないんですよ。

そこで8話の絵里のセリフをよく聞いてみると
「今更アイドルを始めようなんて言えると思う?」と言ってるんですよね。
アイドルを「やりたい」とは言っていない。
続く教室のシーンでも
にこ「やりたいなら素直に言いなさいよ」
絵里「ちょっと待って、別にやりないなんて…」と言っていますし。

そして次に「やってみればいいやん、特に理由なんか必要ない、
やりたいからやってみる、本当にやりたいことってそんな感じで始まるんやない?」と言う希。

希は絵里のやりたいことが「アイドル」だと決めつけてますが、
絵里の口からこれを認めるような発言はされてないので
絵里本人は穂乃果たちの勧誘の勢いに飲まれて
「とりあえず」アイドルをやってみることにしたんじゃないかなと思います。

そしてオープンキャンパスでライブをやった結果
幼い頃バレエをやってた自分と同じ笑顔を浮かべる絵里のカット。
この瞬間、アイドルは絵里にとって「やりたいことになった」のかなと。

話の流れからどうしても「実はアイドルをやりたかった」からμ'sに入ったって解釈しがちですけど
「とりあえずやってみてアイドルをやりたくなった」と考えると
個人的には絵里の心情の変化が納得できるのですが…。

もしよろしければお手すきの時に意見を聞かせてください。
駄文失礼いたしました。
  • 2013-04-24
  • cz
  • URL
  • 編集

[C1264] Re: タイトルなし

>>czさん

あ、その辺りについてはそういう解釈でいいと思います。書きなおすつもりで完全に忘れてた。
「実力の無さを自覚しながらも、踊ることへの熱意や楽しさを燻らせていた」ぐらいのニュアンスでの描写からの「やりたいんだったらやってみたらいい」ですしね。
ただまあ「アイドルがやりたいことになったかどうか」というのは「とりあえずやってみたら面白かった」という方向なのではないかと思います。
「そうか!これだったんだ!」ではなく、自分の中での燻ってた想いが昇華されたというか「原点に立ち返り、バレエの面白さにハマっていた頃の気持ちになった」というか。

  • 2013-04-25
  • 水音
  • URL
  • 編集

[C1268]

返信ありがとうございます。

そうですね、確かに水音さんの解釈のほうが正確かと。

とにかくこれで自分の中にあるアニメ「ラブライブ!」の謎は全部解けました。
正直アニメが自分にとって百点満点過ぎるので続編は望まないんですけど
それでも2期があるなら同じスタッフに作ってもらいたいですね。
そして変に媚びることなく
スタッフが正しいと思ったものを作ってほしいところです。

その暁にはまた水音さんの考察を楽しみにさせていただきますね。
  • 2013-04-25
  • cz
  • URL
  • 編集

[C1270]

>>czさん

さすがに最近の流れでは二期をやりそうな感じですし、スタッフ側も「裏設定がいっぱいあるから」という話をしているんで日常回だけで二期をやって欲しいところです。
  • 2013-04-26
  • 水音
  • URL
  • 編集

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