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最も古くて最も近く、そして最も新しい『攻殻機動隊ARISE』について

攻殻機動隊ARISE (GHOST IN THE SHELL ARISE) 1 [Blu-ray]攻殻機動隊ARISE (GHOST IN THE SHELL ARISE) 1 [Blu-ray]
(2013/07/26)
坂本真綾、塾一久 他

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『攻殻機動隊ARISE』が二週間限定で劇場公開してきたので見に行ってきたのだが、これは歴代で一番士郎正宗の匂いのする『攻殻機動隊』であると同時に、「今だからこそ説得力がある形で提示出来る、最も古い時代の攻殻機動隊」だという印象が強く残る。
攻殻機動隊シリーズは士郎正宗の同名作品を原作とし、今までの間押井守と神山健治という二人のアニメ監督に縁って映像化されてきた。
押井守の作った『GHOST IN THE SHELL』は原作にも存在する「人形遣い」というAIのゴーストとの対話の中で、肉体を持たないAIに存在する意志の所在を問いかける作品であり、そのゴーストとの対話を経て描かれた『イノセンス』では人間の持つ身体というハードウェアと意志というソフトウェアの相互関係のドラマとなっていて、「意志とは何か」という事を命題として追い求めてきた押井守らしい作品群となり、日本よりも海外で高く評価され、様々な作品に影響を与えてきた。
それに対して神山健治の描いた『スタンドアローンコンプレックス』は、人形遣いと主人公である草薙素子が会わなかった時代を舞台にした公安九課の活躍を描いた作品であり、神山健治らしいテロリズムと社会構造、そしてその責任という社会的な問題を取り上げており、そこに描かれた事件の数々は近未来的を舞台にした攻殻機動隊らしい事件でありながら、どこか我々の世界と地続きで起きそうな雰囲気を醸しだしており、その作劇は今もなお支持されている。
そしてそれに続く形で製作された今回の『ARISE』であるが、攻殻機動隊としては最も古い時代を描く物語として製作されており、攻殻機動隊で草薙素子達が所属している公安九課はまだ形も存在せず、バトーやトグサといった九課の面々はまだ顔すら合わせていない時代を舞台に、公安九課が創設されるまでを描いた「攻殻機動隊/Zero」という位置づけの物語になっている。
さてこの『攻殻機動隊ARISE』であるが、第一章である今回の『GhostPain』の何が面白かったかというと草薙素子というキャラクターの内面を掘り下げていく物語だったというところにある。
物語としてはミステリー仕立てであり、軍属の素子の上官が謎の死を遂げ、その死の真実を追い求めるという物語となっているのだが、そうした今回のグランドストーリーの持つ「何が真実なのか」というテーマの中には『ARISE』の草薙素子の重い背景が溶け合わされている。
今回の『ARISE』の草薙素子は今までの素子のようなマッチョというか強い存在ではなく、強さと弱さが混在している存在として描かれているのだが、その強さと弱さの根底にあるものは「生まれながらにして全身義体」という「作られたものではない自分の身体を一度として手にしていない」ということだ。
今回の草薙素子はそうした「生まれながらに持つ自分の身体感覚」というものを持ち合わせていない。であるがゆえに身体感覚としての「自分が立つ場所」というものがあやふやであり、そうした立ち位置や自分がここにいるという現実感を自身の記憶でしか確立できないナイーブさを併せ持ったキャラクター造詣に変わっているのだが、そこで面白くなるのは今回のシリーズで共通のガジェットとして登場する電脳ウィルス、ファイアースターターの存在だ。
このファイアースターターは記憶の改竄を生み出すだけなのだが、多くの人間にとっては記憶は改竄されても自意識というものは身体感覚によってある程度は保証されているものの、草薙素子の場合は違う。その立ち位置というものが記憶によって保証されている以上、その記憶の改竄は彼女自身の立つ場所やひいては現実の存在すらも怪しくしてしまう。
そうした中で「何が真実なのか」ということを追い求める草薙素子の姿は、今までのような強くて頼り甲斐のある草薙素子とは大きくかけ離れたものだといってもいいだろう。
そんなナイーブさを内側に持つ草薙素子の姿を第一章に持ってくる事は「今までとは違う攻殻機動隊である」ということを知らしめると同時に、草薙素子というキャラクターがあのような強い戦士になるまでのドラマであることを感じさせてくれる。
その一端を担ったのがおそらくロジコマと同期していくシーンで、「他者の存在を受け入れることで、自分の現実を確立しようとする」という流れは、今回の『攻殻機動隊ARISE』でしか見れないものだろうし、最も古い時代を舞台にしているからこそ描ける成長の物語でもある。
また今回の『ARISE』が面白いところとして「攻殻機動隊としては最も古い時代」ということは「我々の現実とは最も近い時代」ということでもあるという事で、そうした「近さ」というものが作中の都市描写からも随所に感じる事ができるのだが、個人的にそうした「近さ」というものをより感じるのは不謹慎ながら我々の世界で起きた遠隔操作事件の存在があるように思う。
あの技術的には可能だと誰もが理解しながらも、誰もがフィクション的=現実感のないものとしていた中で起きたPCの遠隔操作事件は我々が暮らしている世界は、一昔前にフィクションとされていたものそのものであることを証明してしまった。
そんな現実と最も近い時代を舞台にしたSF作品である『攻殻機動隊ARISE』は、我々の時代で起きうるかもしれない問題やいつか起きるだろうとされていた問題が描かれる可能性を孕んでいるように思うし、そうした現実と作品世界との近さは作品の中で起きうる出来事をリアルな存在へと変貌させる。
今回の「記憶の改竄」にしてもそうで、我々がもし電脳化したのであれば根拠としての記憶は改竄されていくのかもしれない。
もちろん『ARISE』はフィクションであるのだが、「見ている側の現実と近い時代」というのはそういう感覚を与えてくれるし、『ARISE』では視界のジャックによって戦いを有利に進めるというシーンが存在しているということは、技術の進歩が進めば自分は現実を見ているつもりになっていても、視覚情報を改竄されて全く別の世界を見られる可能性があるということでもある。
『ARISE』の描く世界は紛れもなくフィクションであるが、それがフィクションであり続けるかどうかはまだわからないのである。
そんな最も古くて最も近く、そして最も新しい『攻殻機動隊ARISE』は今後が気になるSF作品の一つであり、11月の第二章も期待したいところだ。

あーあと筋肉描写に関してはよかったです。事前に聞いてたけど、筋肉の動き一つ一つに色気を感じるというのは凄いなぁ。

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