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ビジュアルイメージ先行映画としての『パシフィック・リム』について

「オタクなら見ておけ!」と言われてたけど、コミケ疲れやら何やらで行ける機会がなかった『パシフィック・リム』をようやく視聴してきたのだが、確かに「オタクなら見ておけ!」と言われるのは理解できるぐらいにはいい意味でも悪い意味でもオタク的な映画だと思った。

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正直なところ、個人的には面白かった!と手放しで大絶賛できる映画ではないとは思う。
確かに巨大ロボットにしても怪獣にしても、日本人が生み出したロボットアニメや怪獣映画というものの影響を色濃く残しているし、怪獣が出現する理由も当初は超自然的な何かとして扱われ、人類の英知を結集して作り上げられた壁は容赦なく破壊されるなど、怪獣映画のお約束は守っているかのように思われる。
「オタクだったら見ておけ!」と見た人の殆どが言いたくなる気持ちはわかるし、「この監督は日本の作品を見て育った人間なんだな」ということは理解できる。
好きな3大要素として「ロボット」「アイドル」「宗教」と掲げる人間としては、「同じものを見ている」ということでシンパシーを感じないわけではないが、それら外皮を全部奪い去ってみるとどうなのか。
個人的には『パシフィック・リム』という作品は全て「巨大怪獣対巨大ロボット」というビジュアルイメージありきで制作されているのでありそれ以外のストーリーやキャラクターの感情の持って行き方は全て後付で考えられているように感じられる。
ビジュアルイメージ先行で作品を作る分には一切構わないし、オタク的感性で作品を作るということには何の問題もない。現に「怪獣対巨大ロボット」という構図を作り上げるという本作において一番大事にしているだろうと思われる部分は成功しているのだが、それ以外のところにおいて成功しているかというと正直イマイチだ。
というか「怪獣対巨大ロボット」という構図を成立させることに終始していて、肝心の戦いにおいてそれらのアクションにドラマ的な感情が載っているシーンが実質主役機であるジプシーデンジャーの初陣ぐらいのもので、それ以外のシーンはドラマ的な盛り上がりに対してアクションが味気なく、アクションが派手なところではドラマが盛り上がっておらず、アクションにしてもドラマにしても中心にして見るにはどちらも中途半端で物足りない。
では「怪獣対巨大ロボット」という構図はどうかというと、少なくとも成立はしているし実写であるにもかかわらずロボットは圧倒的な兵器という印象は受けるので「映像化」という意味では成功はしているのだが、成立していればしているほど「二時間というドラマの中で魅力を伝えきれていない」という印象で、怪獣側を「倒されるだけの存在」とするには凝り過ぎたデザインであり、逆にロボット側は「活躍する側」としてはデザイン的にもギミック的にもアクション的にも甘いように思う。
特にアクションにおいてはジプシー・デンジャーは主役だからともかく、準主役と言っても差し支えないストライカー・エウレカが結局のところ胸部のミサイル以外ではジプシー・デンジャーとさほど変わらないではないか。
いくら「素手で殴る」というところが共通であっても足技なり使う格闘技の違いなりでジプシーとの違いは出せたはずで、見た目と一部分を除けばジプシーもエウレカも同じアクション&装備だというのは映像的な面白さに欠ける。
逆にやられ役だったクリムゾンタイフーンの方がその他と差別化できているように思うが、クリムゾンタイフーンはタイフーンで中国拳法へのリスペクトが足りなさすぎて物足りない。
あといくら「怪獣はイェーガーしか倒せない」ということをしたいにしても、人々を避難誘導するとか怪獣の襲撃から人々が逃げるための時間をかせぐとか、そういう「軍隊」とか「ヒーロー以外の存在」がいないので、イマイチロボットや怪獣の強さがわかんねぇし、怪獣に襲われることに依る絶望感が出てないってのはある。
そういうところで「怪獣の恐怖と戦いながらも自分達に出来る事で人々を守り散っていく奴ら」を出してこそ、ロボットにしても怪獣にしても面白く、強く、格好良く見えるんじゃないだろうか。
そういう「牙なきもの」の存在と彼らの抵抗する意志にもこだわって欲しいというのは贅沢なのかね。

でだ。『パシフィック・リム』でもそうなんだが、『タイタンの戦い』においても「聖闘士星矢が好き」というだけでゼウスとハーデスにそれぞれゴッドクロス、サープリスみたいなのを装着させていた事からギレルモ・デル・トロという監督は相当親日的なオタクであるということは間違いない。
しかし『パシフィック・リム』を見る限り、ギレルモ・デル・トロという監督は「個々の要素が好きすぎて足し算は出来ても引き算が出来ない監督」で、その「好きなもの」を自身の作品の中で登場させても「自分が好き」以上の価値を与えられない人だとも思う。
別に悪い映画を撮る監督ではないんだが、やっぱりもの足りねぇよなぁ。何においても。

良かった点としてはジプシー・デンジャーの初陣は感情が乗っていて、ここのガジェットやアクションにおいても見応えがあったという点。市街戦だという事もあって、ロボットと怪獣の巨大感がちゃんと出ているし、ジプシーはジプシーで敗北した後に追加されたエルボーロケットやチェーンソードなどの格闘武装をちゃんと見せているし、ジプシー自体が持つガジェットがてんこ盛りであるし、怪獣自体もジプシーの初陣を飾れるだけの存在感がある存在であるだけに良かったと思う。
あと本作のロボットであるイェーガーのデザインについてだけど、「多分これをモチーフにしているんだろうなー」と元ネタを感じさせるデザインだし、お国柄をちゃんと設定にいかせている。惜しむらくはその設定の大半がパンフないし、ビジュアルガイドによって確認するしかないことだが、まあそれはそれである。
とりあえずジプシーデンジャー=永井豪・石川賢だとすると、チェルノ・アルファは高橋良輔作品であり、ストライカー・エウレカは河森正治作品で、クリムゾンタイフーンはカトキハジメであり、コヨーテ・タンゴはさしづめガンダムといったところかーという事を見ただけで理解できる、というのは凄いことであるし、それらのロボットが違和感なく作品世界に存在しているというのは凄いことだと思う。
あと異世界の風景が石川賢的で非常に燃えるものがあったし、ビジュアル面では大体いいだけにそれ以外のところのダメさ加減が本作の評価を大きく下げている。残念だ。

ああでも、個人的にはストーリー面やアクション面で気になる部分がなかっただけで、映画としては非常に楽しいものではあるので、気になる人は見に行っても損はしないとは思う。
俺が「ギレルモ・デル・トロは日本のサブカルチャー大好きだから、作品の中にもそういうのが出てくるね」ということでは全く喜ばないし、作品評価に繋げない人間だからこういう見方になっただけだ。別にその辺は人それぞれなので好きに扱えばいいと思うのだが、「日本のサブカル大好き」という匂いを一切隠してない作品では『スコット・ピルグリム』の方が遥かによくできていたかな。エドガー・ライトと比べるな!と言われりゃまあそうだけど。あの監督、ジャンル映画のお約束まで徹底的にパロディにしてしまうしな。

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あとどうでもいいことを言う。
杉田智和に叫ばせるなら「ロケットパンチ」より「ブーストナックル」だろ。ビジュアル的にもロケットパンチよりも元の台本に書かれていた「エルボーロケット」の方がハマっているだけに、ソフト化の際にはエルボーロケットの方で差し替えてほしいわぁ。


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2件のコメント

[C1396]

はじめまして、パシフィック・リムの感想をとても興味深く読ませて頂きました。

私はこの映画をとても楽しく観れて満足したのですが、同時に水音さんの仰る設定の後付感やデルトロ監督が引き算が苦手なタイプという感想と同じような印象を受けました。
いろいろ設定をドカ盛りしてあるのに全く掘り下げる気がない所とか、ストーリー展開の仕方に違和感を覚えてしまうので、楽しめても映画自体は中途半端な評価になってしまうと思いましたね。
ロシアチームのパイロットとイェーガーがとても気に入ったので、もっと出せよ!第一世代の生き残りでベテランで夫婦とか最高だろ!とか思いながら見てました。いろいろ光部分があるのに惜しいなと。
拾わない設定をこんなに入れるのなら飛び道具を使わない理由なんかも少しくらいでっち上げてくれよと感じたり、取捨選択がアンバランスに思えたり。

そんな風に考えていて思い出したのが、押井守監督が以前にデルトロ監督について、ハリウッドは奴にとってのおもちゃ箱で、取りたい映像をお金をかけて取る場所であり、パンズ・ラビリンスみたいなのがデルトロの本当の映画なんだ(相当うろ覚えですみません)みたいに語っていたことでした。
それでなんとなく、ああデルトロ最初っから怪獣とロボ戦わせたいだけだったんだな~、と思ったんですが、まさに「ビジュアル先行映画」ですね。
個人的には、バトルシーンも燃えるし楽しいのだけれど惜しい!と思ってしまう映画でした。
あと驚いたのはデルトロ監督は「タイタンの戦い」にも関わりがあったんですね、全く知りませんでした。ウィキみた限りでは名前が確認できなかったんですが、美術面での参加だったのでしょうか?タイタンとパシリムの脚本家が同じなのはそこからの関係なんでしょうかね。

面白くて考えさせられる感想だったのでつい長文のコメントをしてしまいました、すみません。
それでは失礼します。

[C1397]

>>名無しさん

メインキャラであるオーストラリア陣営にしても、「古参兵の父親とそんな父親に育てられたものの、周囲をバカにしている息子」という美味しすぎるコンビなのに、そこに対しては殆ど掘り下げることなかったですしね。
だったら最初から「父親を尊敬している息子」という設定でいいし、その仲違いが大事ならその話は外伝なり設定レベルで用意しておくだけで本編に持ち込まなければいい。
全てにおいて「そういうもの」として描けばいいものに、いちいち丁寧に設定を用意して説明するから個々のシーンの印象としては漫然としたものとなり、結果的に一番見せたいロボット対怪獣の戦いで観客としては集中できない、というのは割りと問題なんですよねぇ。
気にならない人は気にならない問題なだけに、気になってしまったこっちとしては歯がゆい思いをするしかないという。

>>タイタンの戦い

公開当時どこかでそのような指摘を見かけたんですけど、もしかしたら違ったかもしれません。
ただ脚本家が同じということもあって、作劇面に於いては同じように「ゼウスやハーデスが作中で大事に描かれているわけでもないので、やっぱり『好き』以上の役割を脚本では与えてやれてねーなー」とは感じました。
  • 2013-08-29
  • 水音
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