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小説版『仮面ライダー龍騎』と「仮面ライダー」という存在の儚さついて

小説 仮面ライダー龍騎 (講談社キャラクター文庫)小説 仮面ライダー龍騎 (講談社キャラクター文庫)
(2013/08/30)
井上 敏樹

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「戦わなければ生き残れない」とは『仮面ライダー龍騎』のキャッチコピーのことで、仮面ライダー同士のバトルロイヤルを描いた本作では戦わないライダーとはイコール、ライダーバトルの脱落者であり、「強い願いを持つものこそがライダーとなれる」という本作において、このキャッチコピーが意味することというのは「願いのために戦え」ということである。
そんな『仮面ライダー龍騎』の小説版という形でリリースされた本作は、当初は平成ライダーシリーズの多くの作品でプロデューサーを務めていた白倉伸一郎が筆を執るということになっていた。しかしいざ蓋を開けてみれば井上敏樹が筆を執っていたのだが、井上敏樹の芸風といえば昼ドラにも匹敵すると言われるほど人間の弱さに視点を当てた陰湿かつ凄惨な物語が挙げられるが、本作においてもその芸風は健在である。
「仮面ライダー同士が殺し合う」というコンセプトをもつ『龍騎』を井上敏樹が小説化する!というその筋の人から見れば涎が出てしまうような組み合わせなのだが、そんなバトルロイヤルな龍騎の小説化にあたって、井上敏樹が焦点を当てたのは「なぜ彼らが仮面ライダーとなり、他者を殺してまでも戦おうと思ったのか」という「ライダーとなった理由」という部分で、本作ではメインキャラクターであるライダー達が「戦わなければならなかった理由」を井上敏樹なりの解釈を持って掘り下げた作品だ。
まず本作において一貫されていることとしては井上敏樹のヒーロー哲学(これは怪人哲学でもあるのだが)である「ヒーローとはいない方がいい」し「ヒーローになる奴=怪人になる奴は弱い存在である」という部分が全面に押し出されているということで、本作に登場するヒーロー=仮面ライダー達はいずれも契約したモンスターから得た超常の力を振るう事でモンスターやそして他のライダー達と戦う存在だ。
彼らが戦う理由は「己の願いを叶えること」であり、この辺りはTV版でも散々描かれていたように「願いを叶えるために他者を殺すことの是非」というのは改めて問われてみると答えのない解答ではないだろう。現にTV版においても、その回答とは出なかった。当たり前だ。
「願いを叶えるために他者を殺すこと=蹴落とすこと」は現実世界の縮図でしか無いのだから。現に龍騎特別編には「人間は皆仮面ライダーなんだよ!」という台詞がある。「人はすべて仮面ライダー=欲望のために他者を蹴落とすことが出来る存在だ」という本作におけるライダー観を端的に表した台詞なのだが、小説版龍騎ではそんな仮面ライダー達が「人を殺してまでも叶えたい願い=戦わなければならない理由」というものを掘り下げている。
蓮は恋人を救うため。北岡は自分の病を治すため。王蛇は戦いを続けるため。そして龍騎は戦いを止めるためと、基本的な部分は確かに変わらない。だが「仮面ライダーとなった人間は心に傷を負って死んだ人間だ」という蓮の台詞があるように、彼らが心が死ぬに至るまでのプロセスを丁寧に描いた事は「人を殺してしまっても叶えたい願いの尊さ」と共に彼らが死んでいるからこそ人間に戻りたいと願い、真剣に戦う姿の儚さに通じる。その儚さを尊く理解しているからこその最終決戦は、井上敏樹の哲学である「ヒーローは弱者なんだ」という弱者の儚さを感じた上でのやりとりであり、戦うことでしか決着を付けられない仮面ライダーという存在の持つ虚しさを感じさせる。その上で最後に物語を締めくくるあの一文。あれをどう捉えるかということを、読者の解釈に委ねている点。あれは井上敏樹なりの優しさなんじゃないかと思うところで、個人的にはTV版龍騎の「戦うに足る理由は意外と無い。したがってこの戦いは無意味なのだ」という突き放した決着だと思うが、その辺は読者一人一人が読了後に考えるべき話だろう。
本作は色んな意味で物議を醸しだし、仮面ライダーという作品群の変化をもたらした『仮面ライダー龍騎』という作品のノベライズとしては完璧に近いとは思うのだが、井上敏樹は「小説化するということはモチーフぐらいしか残せない」という発言をしていたように記憶している。
本作もまた『仮面ライダー龍騎』としてみるとモチーフしか残っていないのだが、モチーフしか残っていないからこそ『龍騎』という作品の本質的な部分を物語化しているといえ、その面白さは破格の面白さであるといえるだろう。また城戸真司というキャラクターを掘り下げてみた時に、偽善者呼ばわりされても戦いを止めたいと願う城戸真司の『願い』の根源が描かれた本作は城戸真司もまた「仮面ライダーである」ということを相当に意識させており、イレギュラー的にライダーになったものとして扱ってきた『龍騎』というコンテンツ群の中でも最も異質な作品だろう。
個人的には相当好みの作品なのだが、しかしクラッシャーをここまでちゃんと拾い上げてきたライダー作品ってアマゾンとかシンとか響鬼とかぐらいじゃないですかね。あと主人公である龍騎のデザインについて言及してきたのも初めてか。
『仮面ライダー龍騎』から10年が経過した今、新しい龍騎に出会える本作は貴重な作品だ。こうした出会いに感謝していきたい。
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