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3年目の『未来福音』について

空の境界 未来福音 (星海社文庫)空の境界 未来福音 (星海社文庫)
(2011/11/11)
奈須 きのこ

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劇場版『空の境界』シリーズの最新作である『未来福音』をようやく見たのだが、やっぱりufotable特有の凝りまくったレイアウトと構図作りは奈須きのこの描く世界観は噛み合っているなぁ。
この『未来福音』は同人誌として頒布されたものがベースになっていて、冒頭に武内崇が同人誌用に書き下ろした漫画のアニメ化作品と未来福音本編のアニメ化作品の二本立てという構成になっている。
漫画部分のアニメに関しては劇場版空の境界シリーズでは第一章に当たる俯瞰風景を担当したあおきえいが、『未来福音』本編を『Fate/Zero』などのキャラクターデザインや作画監督を担当した須藤友徳がそれぞれ担当している。須藤友徳は俺の記憶が確かならばおそらく初監督になるはずで、ベテランの短編と新人の長編を一度に楽しめると思えばなかなか面白い構成だと思う。どちらも原作は相当読み込んでいるように感じられたし、二本並べた時にどちらかが浮いているわけでも見劣りするわけでもなく、「二本で一本の作品」である原作を上手く映像化しているように見えた。

あおきえいが担当した武内崇パートの映像化について述べておくと、あの漫画を映像化していく上で最も大事だろうと思われる猫と式の描写、そして正月における黒桐幹也の「今年もよろしく」宣言をどう式にとって劇的なものとして演出するかということに関しては見事なもので、式の内面描写がそのまま映像になったかのような幻想的な世界の作りこみように関しては息を呑まされた。
あおきえいという監督はどちらかと言えば一枚絵というか「瞬間を切り取った時にすべての物語がそこに集約されているかのようなドラマチックで印象に残る映像を作る」という印象があって、『俯瞰風景』ではそこまで動的じゃない原作を動的に切り替えながらも細かい設定回りについては説明ではなく描写だけで全て見せていて、これが見事なまでに伏線になっているなど細やかな気遣いができていたし、同時に「あるがままに受け止めればいい」というか「映像に写っているものが全て」という心理描写すらも現実世界の動きだけで見せてしまう大胆さを併せ持っていて、その辺の繊細さと大胆さは『未来福音』(漫画パートだが)でも十二分に発揮されており、初詣に行った先で突然降り始めた雪の中、式に手を差し出す黒桐という何気ないシーンにおいて、あおきえいはこの二人のドラマを感じさせる映像を作り上げていた。幻想的だが儚さと死の耽美感をも含んだものをあの短い時間の中で描けており、この後の二人の可能性も余韻としておりドラマを想像させてくれる。また黒猫と式を似たもの同士として描く上でもその辺は猫と式の演技だけで見せている辺りも素敵であり、鮮花の「式と黒猫が似ている」という指摘がその台詞以上の説明がなくともそう感じられるものとした事は、その後の「猫を舐めるな」宣言に生きてくるように設計されている。
この辺りに関しては原作の上手さもあるが間の使い方が上手いというところなのだが、であればあるほど『Fate/Zero』でなぜあおきえいはあれほどまでにつまらない映像化をしてしまったのかということに疑問が出てくる。思うにあおきえいと奈須きのこ作品は相性がよく、あおきえいと虚淵玄作品は相性が悪かったというだけなのではないだろうか。
あおきえいの上手さというのは先ほど上げたとおり、「映像に写っているものが全て」と言う奴で『俯瞰風景』においても物語を汲み取る上で必要な部分は台詞で説明していながらも、多くの部分を映像部分を作りこむことで説明が不要になるほど映像に説得力を持たせるという手法で見事な映像を見せてくれた。またこの点に関して言うなら心理描写が必要な部分である『未来福音』の漫画部分においても、そういった心理描写を映像的な説得力を持たせるよう、それでいて作品世界で今起きている事象を上手く用いて映像として見せており、こうした「作品世界の現実を作りこむ」で映像化していく手法においてあおきえいはおそらくオンリーワンの才覚を持っているようには思うし、心の機敏の映像化において何気ない仕草一つで演出してくるところなんかは心の動きが大事な『放浪息子』の映像化において抜擢されるだけのことはある。
しかし虚淵玄作品に関して言うなら、あおきえいの全ての長所は短所に変わる。
なぜなら虚淵玄作品はリアリズムとそれを踏まえた上でのロマンチシズムにあふれているからで、リアリズムを突き詰めまくった先のロマンチシズムという奴を人間一人の生き様として見せてしまう虚淵作品において、映像だけでそれらに対して説得力を与えるのは無理だからだ。
この点に関して言うならそれを理解した上でリアリズムとロマンチシズムを切り離して描写したTV版『Phantom』はまだ上手くやっている方で、チームワークである『まどか☆マギカ』もまた「人の死」という現実をある程度リアルに描いた上で「魔法少女」というか「どんな願いでも叶う」というロマンさを描いているように映る。
また群像劇という構造上一人の人間の心理状態にだけ注力すればいいというものではない『Fate/Zero』は少人数に焦点を絞ることで心理描写を何気ない仕草の中だけで描くあおきえいの芸風と咬み合わない。だから映像的にはつまらないものになったのではないか、という事はできるのではないだろうか。
こうした虚淵玄作品につきまとうリアリズムとロマンチシズム、そこからくるドラマにおいてあおきえいの持つ芸風という奴は全く真逆に位置するもので、そういう意味では完全な人選ミスだったのではないか、というのを本作を見て感じたところである。まあ適当に言ってるけど。

『未来福音』についてだが、こちらについては特にいうことがないほど上手く映像化しており、本当に初監督作品か!?と驚かされた。
本作の鍵となる「未来視」という異能の描写について言うなら、須藤友徳はレイアウトや画面の構図に凝る芸風により映像にすると退屈になりそうな「未来視」とそれによるミスリードをレイアウト作りや画面の構図に拘り、実際に動画となった時にカメラワークが追加されることで飽きさせない工夫がされているように思う。
「未来視」という「視界」が大事になる本作を映像化しているので、構図としても主観ショットが多いのだが、それにより未来視の持ち主である瀬尾静音と倉密メルカの未来視の違いをちゃんと感じられるようになっており、ここについては映像化したからこその驚きが生まれている点だろう。
また倉密メルカと瀬尾静音の物語を終えた時の面白さというのもあって、冒頭では犬に噛みつかれるかもしれない「未来」を恐れた瀬尾が、黒桐幹也に出会って未来を恐れること無く手を伸ばして犬を撫でる描写で事前と事後の対比になっている点や、未来視をもっていた頃の超人的とも言える空き缶を投げる描写を印象深くやることで、その後の空きカンがゴミ箱に入らない倉密メルカの描写一つで、説明なしでも「未来視が失われた」ということを見せており、こういう点においても本作はよい映像化をしていると思うが、1つだけ欠点を上げるならメルカの未来視が破壊されるシーンにおいて「いつもの殺し描写」になってしまったのは残念かなぁ。せっかく「視界に入ったものの未来を測定する異能」なんだからちゃんとその「視界」を破壊して欲しかった。この点については原作が圧倒的に上手いのだが、あれは小説だからこそ出来る演出だ。アニメでやるとしたらどうするか、と言うのが気になっていただけに、ちょっと残念だ。俺ならメルカの視界=カメラにして式が死ぬシーンのど真ん中から式のナイフが出てきて、その視界を切り裂く演出にするだろうなぁ、とは思ったがこれは3Dでやったほうが映える演出か。まあその辺はいい。

全体としてみてみれば見事な映像化だと思うところで、本作に関しては特にいうことがない。
『Fate/Zero』であおきえいとufotableに失望した俺でも楽しめた作品なので、気後れしている人は是非見に行けばいいと思うが、星海社で売ってる『未来福音』は漫画未収録らしくてですね。残念な商業版やなぁ。

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坂本真綾、鈴村健一 他

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