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『楽園追放』の見せるアニメの可能性について

「充分に発達した科学技術は魔法と見分けが付かない」とはSF小説の巨匠、アーサー・C・クラークが唱えたクラークの三原則の一つだ。確かに高度に発達したホログラムと魔法の力で見せられた幻影に違いなどない。むしろ一瞬で部屋の風景すら変化させられ、誰にでも使えるホログラムの方が優秀な側面もあるだろう。
では高度に発達した人工知能と人間の違いとはなんだろうか。肉体を持っているかどうかだとするのならば、肉体を捨てた人類と人工知能の違いとはどこにあるのだろうか。
この問いは多くの作家達の想像力を掻き立て、様々な物語を生み出してきた。
サイバーパンク小説でも有名な『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』はそういった問いに挑んだ作品であり、そんな『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』を映像化した『ブレードランナー』はその世界観も含めて世界に衝撃を与えた。
日本においては士郎正宗の『攻殻機動隊』とそんな『攻殻機動隊』を映画化した押井守監督の『 GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』は有名だ。本作『楽園追放』はそんな「高度に発達した人工知能と肉体を捨て去り、電子存在となった人類、そしてそんな電子存在となる道を選ばずに地上で暮らす人」という三つの存在を描きながら、「人とは何か」ということをテーマにした作品である。
本作の監督を務めるのは『鋼の錬金術師』『機動戦士ガンダム00』の監督で知られる水島精二。脚本は近年活躍の部隊を広げ、『仮面ライダー鎧武』にて特撮界にまで進出した虚淵玄が務める。
本作の特徴としてはほぼ全編3DCGでアニメーションが制作されているということが上げられるが、本作の制作を手がけたのはグラフィニカ。日本のアニメシーンで積極的に3DCGを導入するなど、先進的な試みを行っていたGONZOのデジタル部門をルーツに持つ制作スタジオだ。『ガールズ&パンツァー これが本当のアンツィオ戦です!』や『ストライクウィッチーズ Operation Victory Arrow』の3DCGや撮影、編集に携わっており、今様々な意味で注目を集めているスタジオである。
さて、そんなグラフィニカが満を持して挑む3DCGによる劇場版アニメ『楽園追放』だが、何と言っても素晴らしいのは「表情」と「演技」だろう。
日本のアニメシーンにおける3DCGの進化はセルルックかつリミテッドアニメーションを主流として独自の進化を遂げてきた。コレはつまり日本のアニメCGは手描き作画のアニメに近づかんと進化を続けてきたということでもある。
近年において3DCGを全く使用しないというアニメが見当たらなくなったのは、作画の労力を削減するためというのもあるのだろうが、そうした「手描きアニメへ近づく」という進化を続けてきたアニメCGが既に作画と変わらないところにまで到達したということの現れだろう。
しかし「アニメシーンにおけるキャラクター表現」というカテゴリにおいてはどうかと言われれば、『アイカツ!』や『プリティーリズム』『プリパラ』などのライブシーンなど、部分的には表現は行われているものの、3DCGがその全てを担った事はそれほど多くない。ましてや「アニメ的キャラクターとキャラクターを感じさせるアニメ的な表現」と言う意味ではまだまだ発展の余地は残されているといえるだろう。
『楽園追放』でグラフィニカが挑んだのはそんな「アニメ的なキャラクターによるキャラクターを感じさせる表現を3DCGで表現する」ということだ。
本作で主役となるアンジェラ・バルザックは任務で生身の肉体を手に入れ大地に降り立つ。
そんな彼女は任務遂行の旅を通じて「生身の肉体で大地に足をつける」ということを知っていくのだが、そんな彼女だからこそ「表情」というものは非常に大切なモノになってくる。病気にかかればやつれたように見えなければならないし、驚く時は驚いて見えなければならない。
アニメ的なグラフィックではそうした表情を演出する上では目の表現が重要となってくる。
『楽園追放』ではその瞳を幾層にも分けて個別に制御できるようにすることで、大地に足を下ろし、様々な体験をして変化していくアンジェラの演出を可能としている。ディンゴに「狩りの基本」を説かれ、しぶしぶ引き下がるアンジェラの感情を視線の動きだけで表現できているのは、その細かなセッティングの力があってこそだろう。
また電子から肉体へと移ったアンジェラをディンゴが受け止めるシーンでは、恥ずかしがりながら慌てて距離を離すアンジェラを赤面させているのだがこの赤面するアンジェラの赤面のさせ方は非常に上品な作りとなっており、アンジェラの人間味とキャラクターとしての可愛らしさが垣間見える。その他にもキャラクターをデフォルメ化させた、所謂崩し絵的な表情の表現や敵との戦いで熱が入る余り叫ぶアンジェラなどはこれが3DCG作品であることを忘れてしまうかのような素晴らしい表情が付けられている。これらは全てわずか一カット(ものによっては数コマ)ではあるものの、その演技一つ一つにはグラフィニカの並々ならぬこだわりが宿っており、作品の中でも印象に強く残る『楽園追放』と言う作品を代表する演技の一つだ。
本作を語る上で3DCGが得意とする空間描写も忘れてはいけない。
序盤の電子空間でのチェイスシーンではカメラの前を横切るターゲットを追うアンジェラもカメラを横切り、そんなアンジェラをカメラが追いかけるカットがあり、そのところどころで「電子空間」と言う場所の空気を味あわせてくれるし、終盤のクライマックスであるニューアーハンを操るアンジェラと大勢の敵との戦いでは廃墟と化したビルの合間に狭苦しさを覚えさせる。その狭苦しさがあるからこそ、上空へと高く飛び上がったニューアーハンを通じてアンジェラが見る世界の広大さと緑の幻影が美しい。
崩れたビルから落ちてくる巨大な瓦礫の山は空間そのものが押しつぶされていくかのような圧迫感と絶望感があり、それに押しつぶされてしまった敵には同情すら覚えてしまう。
そんな見ている人間に空間の変化から感情を引き出させる空間表現は『楽園追放』の面白い点だ。
この他にも様々な点でそんな空間の表現が見られ、様々な感情を引き出してくれる。その感情を本作は気持ちよい映像体験を伴いながら絡みとっていく。そのため、非常に見ていて気持ちがいい映像に仕上がっているのである。

これは余談となるが、自分が一番好きだったのは食事をするシーンだ。
作中で食事をするシーンそのものは非常に少ないのだが、食べているものに応じて顎の動きが全く異なったものとなっているのだ。顎の動きが違うという事は「今食べているものの歯ごたえが違う」ということでもある。そうしたところを凝る事で、「食事」という生きるのに必要な(そしてディーヴァの人間からすれば不便な)行為が「何が人間なのか」ということを問うシナリオの中で意味が光る。
些細な事ではあるが、そんな些細な部分さえも作品を大事な要素なのだ。

本作はSFとして、サイバーパンクとしては極めてオーソドックスなテーマを持つ王道の物語だ。
科学の発展により曖昧と化しているからこそ生まれる「人間とは何か」という問いを持つ物語はSF的には「よくあるもの」だろう。その点を持って本作を低く評価する声はある意味正しいといえる。
しかし本作は映像作品である。映像作品においては物語は映像体験を伴って視聴した者の心に伝わっていく。
「セルルックの3DCGアニメ」「演技は全て手付け」という日本では余り例を見ない形で世に生まれ落ちた本作は、3DCGアニメと手描きアニメの面白さ、両方の側面を持つ非常に意欲的な作品だ。
そんな意欲的な作品だからこそ生まれる問いがある。
『楽園追放』とは一体何かと。
答えは簡単である。
『楽園追放』とは「アニメ」である。
それもただのアニメではない。「アニメの可能性を感じさせる」。そんな「アニメ」である。
そんな「アニメの可能性を感じさせるアニメ」である本作が誇らしげに見せてくれたアニメの可能性が素晴らしいものである事を一アニメ好きとして期待している。


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