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『ラフダイヤモンド』と辛い現実の向う側にある景色について

『結城友奈は勇者である』。つまり「神樹=死のウィルスから守る、人類存続のためのシステム」「勇者システム=神樹を存続させるために、適性のある少女達を供物とするシステム」で、物語の大枠としては「人類を守るためには人を犠牲にしなきゃいけないシステムをどうするか」と言う話ということなのだろう。
まあ勇者システムが明らかに巫女をイメージさせるデザインだし、コアを露出させるための呪文が祝詞だったりとその辺りは予想の範囲内ではあるのだが、「バーテックスがなぜ神樹を狙うのか」とか「今回のバーテックスは色々例外」とか考えるに、まだ明かされてない設定もあるっぽいし、神樹が完全なシステムとして描かれている辺りはこの手の話の類型からは変化をつけてるかなーとは思う。「絶望を生むシステムと」いうわけでもなく、単に「誰かを犠牲にしないと機能しないシステム」だしね。
しかしタカヒロといい虚淵玄といい、エロゲライターはこういう「システムをどうにかする話」が好きだなぁ。
モラトリアムシステムに乗っかった形でなんとかしてしまった『Angel Beats!』が逆に特異に見えるぜ……。



「漫画家漫画」と言うジャンルがある。
漫画家という職業と漫画業界をテーマにした業界漫画のジャンルのことだ。
一つの業界をテーマにした漫画は業界の数だけあると言ってもいいが、「漫画家」という職業や「マンガ業界」というものを扱った「漫画家漫画」が他の業界漫画と違う点は一つ。それは「漫画家について書いた漫画を書いている人も漫画家」ということだ。そのため、漫画家漫画はある種の自伝的な側面を持ち、その話のバリエーションは漫画家の数だけ存在していると言ってもいいだろう。
本作『ラフダイヤモンド』はそんな「漫画家」を題材とする「漫画家漫画」の一つである。
作者は緒方てい。
戦闘種族・キマイラの血を引く少女、リンとそんなリンに心を惹かれて彼女を支える事を誓った剣士、タキの帝国の皇位継承者を帝都へと送り届ける旅を描いたダークファンタジー作品『キメラ』や毎週月曜19時に現れる謎の敵、ブラックマンデーと戦う戦闘用人造人間、カティサークの活躍と恋愛模様を描いた『人造人間カティサーク』などで知られる少年漫画家である。
現在はコミックバースにて第一次世界大戦後の世界を舞台に愛と正義の呪いを受けた人狼、ヴォルフと盲目の少女、フェルスの旅を描いたローファンタジー作品『暁闇のヴォルフ』を連載中の緒方ていが新たに題材として選んだのは、漫画への熱意を失ってしまった現役高校生の漫画家、高槻勇斗と80年代に漫画家として活動していたと語る幽霊の少女、天王寺あきらの二人の漫画家が漫画家志望者達と共に漫画に対する情熱を探しに行く漫画家漫画である。
本作の特徴は二つある。
一つ目は多くの漫画家漫画が自分達の職場、つまり創作活動を題材としているのに対して、本作は漫画家志望者達を教える専門学校を舞台にしているということ。二つ目は前述したように漫画への情熱を失ってしまった主人公が情熱を取り戻していくまでを描いたリハビリ物としてのドラマを貫いているということだ。
本作の主人公・高槻勇斗は一話スタート段階で漫画家としての情熱を失ってしまっている。その事は高槻勇斗が執筆している漫画、『ソウルブレイド=イグニッション』の主人公の「ただの人間に戻るんだ!」と言う叫びと勇斗自身の「普通の高校生に戻るんだ!」と言う叫びがリンクするように描かれている事からも分かるだろう。
しかし知人の漫画家がピンチと言う話を聞いた勇斗は何故かその仕事を手伝ってしまう。
「マンガなんて大嫌い、と思わず口にしてしまうほど情熱を失ってしまった自分が、なぜ知人の作品とはいえマンガの手伝いをしてしまったのか」
その理由を探して勇斗が専門学校の講師の仕事を引き受けたところから本作は幕を開ける。
しかし「マンガを書く」ということへの情熱を失ってしまった彼は、初めての授業で数ある職業の中から漫画家を志し、漫画を書くことが好きで仕方がないような人達を前に、「漫画家である」ということの辛さを吐露してしまう。
自分の中にある全てを時に材料にしながら作品として仕上げていくことこそが「好きなことを仕事にする」ということだと。どんなに辛くても誰かを楽しませるために書き続けなければならないのだと。
プロの漫画家として数多くの経験を経てきたからこそ「マンガを書く」ということ、そして漫画家であることの辛さを生徒たちに思わずぶつけてしまうのである。
この「プロの漫画家だからこその辛さ」というものは間違いなくあるのだろう。
締切は刻一刻と近づくにも関わらずアイデアは全く出ないということもあるのだろう。どれだけ悲しいことがあっても、読者や締切はそんなことは関係なくやってくるし、時にはその悲しい経験をも糧に変えてマンガを書くしかない事もあるのだろう。
しかし「本当に辛いことしかなかったのか」と天王寺あきらは問う。
そうした「辛いこと」は紛れも無くある。だが、「「辛いこと」だけが漫画家として活動していた中で見たものだったのか」と問われると、そうではなかった。
漫画家・高槻勇斗として活動してきた中には辛いことは幾つもあった。しかしそれと同じ分だけ嬉しい事もあった。
その嬉しい事の一つ一つがプロとして活動してきた漫画家・高槻勇斗を支えてきた。
高槻勇斗は言う。
「千の剣の山を超えた先に、見える景色が必ずある。そこに何があるかはわからないけど、そこには必ず何かがある」。
辛く困難な創作活動の先にある何かを見るために。そしてその何かを自分の目で見た喜びのために。
高槻勇斗が最初に教えたそんな「プロの辛さ」と「辛さを乗り越えた先にある広がる景色の喜び」は漫画家志望者の心に火をつけていく。
本作『ラフダイヤモンド』が描いているのは「マンガへの情熱を失ってしまっている」という漫画家の主人公が、熱い漫画家志望者達と触れ合いながら情熱を探し、取り戻していく物語だ。
高槻勇斗は「プロであることの負の側面」を骨の髄まで理解しているからこそ情熱を失ってしまっている部分もあるのだろう。しかし生徒達に「教える」と言う立場になる事で、授業のたびに「プロの漫画家ってなんだろう」と問われた事で少しづつ、その理由を見つけていく。そういう意味では本作は「プロとしてまた一歩先へと歩もうとする漫画家の成長を描いている」とも言える。
熱い少年漫画家緒方てい。そんな彼が描く漫画家漫画『ラフダイヤモンド』は「漫画を書く」という所業の様々な面白さを描いた熱い漫画だ。


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(2014/11/04)
緒方 てい

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