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『ミリオンドール』「リアル」で多層化された芸能界と対立構造のアイドルの物語について

『ガンスリンガーストラトス』。平行世界を扱った作品なので「WEB配信版とTV放送版の内容を変更する」と言う仕掛けについては一定の理解はできる。だが、この仕掛けも込みで『ガンスリンガーストラトス』と言う作品である以上、その仕掛けを普通に見ていて気づけるものにしないと何の意味もないのでは?
WEB配信版とTV放送版を両方見ているような視聴者なんて稀有な存在なわけで、この仕掛けで本気で驚かせたいのであれば、「WEB配信版とTV放送版は違う」ということを示唆した内容にするとか事前にこの仕掛けの存在を公表しておくとか、やれることはいくらでもあったはずだ。その辺りの仕込みをせずに最終話後の特別編で「最終話の内容はTV放送版とWEB版とで違うんですよー」みたいな事を言われても、「滑ったギャグの解説」にしか見えない。というか、こういう「ギミック」なんてものは作品の中でちゃんと見せてこそ意味があるのであって、ギミックだけ説明されても何の意味もない。「策士策に溺れる」というかなんというか。
一言で言えば「超もったいないことをしたなぁ」というところなのだが、しかしよりにもよって最後に自分からネタバラシしたのは最悪と言っても良い。その事を一切公言してなければ一部のユーザーに発見されることで好意的に評価されたかもしれないのに、わざわざ自分からその仕掛けについて公言するとか、刎ねられるために首を差し出したようなものでしょうよ。



昨今アイドルを題材にした作品が次々と制作されているが、その中には「リアルさ」を押し出した作品も増えてきている。
代表例としては『少年ハリウッド』などがそうだろう。「思春期の少年達がアイドルになっていく」と言う過程を周辺環境の変化も絡めて丁寧に描写しており、センターを誰かに奪われれば涙を流して悔しがる姿や自分達のステージでファンが楽しんでくれたら喜ぶ姿は「ありそう」なリアルな描写を積み重ねていたからこそ強く印象に残るものだった。
男性アイドルではなく女性アイドルを題材にした作品だと、今年9月から劇場版第二弾が公開される『Wake Up, Girls!』もまたそうした「リアルさ」を特徴に持つ作品だろう。またメインでこそないが『アイカツ!』のお仕事話は「業界の裏側」を丁寧に描写しており、いかにも「ありそう」な雰囲気を持つ物語となっている。
2015年7月よりアニメが放送開始される『ミリオンドール』もまた、『少年ハリウッド』や『Wake Up, Girls!』のように「リアルなアイドル描写」を特徴に持つ作品だが、本作で重要なのはアイドルを取り巻く環境の中でも「対立」をリアルに描写している作品ということだ。
『ミリオンドール』の物語の根底にあるのはゆりの、りな、ももなの三人による福岡発の地方アイドルユニット、イトリオと地下アイドル、マリ子という二つのアイドルの対立。大手レコード会社が両者に目をつけた事により始まった両者の戦いだが、興味深いのは徹底して両者が対比させられている事だろう。
イトリオは大手レコード会社に注目されている事を受けて弱小芸能事務所であるにも関わらず、マネージャーも含めて一丸となってメジャーデビューを目指して努力していく。自分達でメジャーデビューを決めたということもあり、ユニットの中で衝突を繰り返しながらも成長を遂げていく。そういう意味では分かりやすい王道的な成長物語を持つのがイトリオなのである。
それに対してマリ子はというと本人は人一倍努力しその実力も確かなものがあり、メジャーデビューと言う願いをライブ中に吐露するほど強い思いを持っているのに事務所側は全くやる気がない。新曲も衣装も与えようともしない。そしてそんな現状を脱却するために事務所を辞めてフリーになることを決意するも家族の理解は得られない。このようにマリ子は徹底して「逆境」の中に置かれており、イトリオと比較すればするほどマリ子の境遇の悲惨さは際立っている。しかしそんな逆境の中で足掻き続けるからこそ彼女のアイドルとしての芯の強さが魅力として光る。イトリオを「分かりやすい王道」とするのならマリ子は「逆境の王道」だと言えるだろう。逆境の中で足掻き続けるからこそ、マリ子は自然と応援したくなるアイドルなのだ。
このように『ミリオンドール』では地方アイドルのイトリオと地下アイドルのマリ子を対極に配置することで、ファンのため、自分のために上のステージを目指そうとするアイドルの成長物語を多面化することに成功しており、イトリオとマリ子が互いに意識し合いながら成長していく姿をそれぞれの魅力が光る形で楽しませてくれる。

また『ミリオンドール』ではファンやプロデューサー達もアイドルと同じぐらいに物語を担っている点も興味深い。
特に重要なのは序盤から展開されているファン同士の対立だろう。
ファン同士の対立といっても「イトリオファン対マリ子ファン」というだけではない。本作が描くファン同士の対立の本質はファンとしてのスタイルの違いである。
自宅などで応援する「在宅」とライブなどで応援する「現場」。両者はそれぞれ自分達にしか出来ない方法でアイドルを応援しているのだが、在宅にはアイドルそっちのけで自分達だけで盛り上がっているように見える現場の気持ちは理解できないし、現場にはライブにも参加せずに自宅で応援しているだけの在宅の気持ちは理解できない。
ネット上では抜群の知名度を誇るブログを運営する在宅のすう子と現場ではカリスマと呼ばれるリュウサンは、応援しているアイドル同士の対立もあって何度と無く衝突するのだが、「絶対に分かり合えない相手」と思いながらもどこかで認めているのはどちらも「アイドルを自分なりの方法で応援したい」という思いは同じだからだろう。同じ思いを持つ「似たもの同士」だからこそ「同族嫌悪」で真正面から衝突する。アイドル同士の対立が生み出した応援スタイルの異なるファン同士の対立が実に熱く面白いのだが、単行本未収録話では売り出したいアイドルの違いによるプロデューサー同士の対立が発生。「アイドル同士」「ファン同士」で構築されていた対立構造の新たな層として「プロデューサー同士」が加わっている。
「運営サイドの対立」というのはあまり見られないものだっただけに、このプロデューサーという層が加わったことで物語の結末にどのような変化が生まれるのだろうか。今後にも期待したいところである。

『ミリオンドール』は地下アイドルと地方アイドル、在宅と現場、プロデューサーとプロデューサーと多層化された芸能界と対立構造で「アイドル」を描こうとしている野心作である。対立模様を丁寧かつリアルに描写することで、どちらの熱い思いも作品の中でキラリと輝いている。7月からのアニメ放送開始に合わせて単行本化された今だからこそ、一読して欲しい。
そこにはアイドルと言う世界にある辛さも喜びも全て描かれているのだから。

 

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