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『ペルソナ5』暗雲立ち込める今を切り開くトリックスターたちの物語

この世に存在するあらゆるものは観測する人間、あるいは観測する場所によって様々な形状に変化する。
Aだと思っていたものが人によってはBになるし、見る場所を変えればCになる。故に絶対的な見え方というものは存在しない。しかし絶対的な見え方というものが存在しないからこそ、あらゆるものには違いが生まれる。その違いが個人と他者を分け、そして双方に面白さを生じさせるのである。

先日友人にかねてから「2016年を代表するゲーム」として勧められていた『ペルソナ5』をクリアした。
総プレイ時間は大体70時間。『ペルソナ3』よりは短く『ペルソナ4』よりは長いといった感じだが、一瞬も退屈せずに駆け抜けられた事、そして長い時間を退屈させる事なく駆け抜けさせる作品だったことをまずは賞賛したい。月並みだが「凄い作品」だった。
大きな作りそのものは『ペルソナ3』から続く「日常生活を送りながら、影でペルソナ使いとして戦っていく」から変わっていない。物語の括りも「一年間」で変更されていないのだが、しかし『ペルソナ5』と『ペルソナ3』及び『ペルソナ4』とでは決定的に異なる点がある。
それは「本作の大半は主人公の回想である」という事だ。
これにより『ペルソナ5』はこれまで以上に強固かつ唯一無二の「一年の物語」を獲得することに成功した。「日常」は全て「世間を騒がす心の怪盗として警察に捕まり、取調べを受けている最中」という現在の前日談へと変わり、全ての日々は「警察に捕まっているこの状況を打開するための準備期間」となった。協力者を得れば「現在」へと時間は戻り、シナリオが進んでも現在の様子は語られていく。
これまでのように「日々の積み重ね」などというものは本作には存在しない。『ペルソナ3』や『ペルソナ4』にもあった修学旅行や社会科見学、花火大会に海への旅行などの学生らしいイベントも作中には存在しているが、その全てが「怪盗として捕まった主人公の回想」であることを考えると、現在に至るまでの息抜き程度の意味合いしかない事は明白である。まあ東郷一二三の水着姿は可愛いんだけど。
そうして昼はごくごく普通の高校生として、「悪人達の歪んだ心を盗み、世直ししていく怪盗団」として活動して「逮捕される日」までを過ごしていく。その日々には様々な出来事や様々な出会いがあり絆は紡がれていき、この過程も滅茶苦茶に面白いのだが、様々な困難を乗り越えて「現在」に辿り着いた時がまた格別に面白い。
というのも、プレイヤーと主人公は同一存在化する『ドラゴンクエスト』形式の主人公にも関わらず、本作の主人公は「プレイヤーすらも騙して困難を打開する」のである。この困難を打開する理屈そのものはゲーム以外でも代用可能なのだが、その驚きと面白さは間違いなくゲームだからこそ格別なものである。
「プレイヤーが持ち合わせない情報を主人公だけが持っている」という大ネタの伏線そのものは随所に凝らされている辺りがまたずるい。二週目をプレイしていれば分かるが、本当に随所で「主人公はこの大どんでん返しのために動いていた」という事が語られており、それがまた唐突さを打ち消し、納得度合いを引き上げている。一部大ネタにたどり着かせないように曖昧にしているところもあるが、それはまた「自白剤が盛られている」という設定によって納得させている辺りも恐ろしい。この展開を踏まえて作っているとしか思えないその全てに驚くほかない。

また主人公が捕まるきっかけを作った「裏切者」の動かし方も素晴らしいところの一つだろう。
物語の序盤から中盤にかけて舞台に登場して主人公達を嗅ぎまわるある人物こそが主人公達を警察に売った裏切者なのだが、この人物をあえて疑惑から外すために一度仲間に加入させてしまうのである。それも「他の仲間と同じような性能」で。
一度仲間として入った上にその性能も他の仲間と遜色ない扱いであるため、どうしても意識から外れがちである。おまけにその人物が加入した直後のダンジョンはその人物が戦闘面でもシナリオ面でも大活躍である。そうしたスペックがあるようにこれまでの物語でも演出されていたこともあり、その人物が裏切者だと言われた時には「だと思ったよ!」と「意識の外側だった」の両方が思い浮かんだ次第である。この点も地味ながら評価したい。
地味ついでにだが、シリーズ皆勤賞のあるキャラクターの声優が今回だけ変更されている点も地味に伏線だったようだ。
元々担当していた声優は既に鬼籍に入られているため、代役を立てたのかと思いきや……で、こうした点でも本作は恐ろしいほど「プレイヤーの考え」を先読みする作品で、実に「悔しく」、そして「面白い」という想いをさせられる。アトラスは何とも凄い作品を作り上げたものである。まさかプレイヤーすらも騙して窮地を脱するなんて!
そうした驚きのギミックにより物語冒頭で語られた「逮捕の日」を乗り越えても物語はまだ終わらない。
むしろここから先がこの物語の神髄だといえる。
自らの私利私欲のために人の心を暴走させ、廃人化させてきた巨悪を改心させても人々はその事を評価しない。
リーダー不在の状況に嘆き、悲しみ、不平不満をぶちまけながら現状を変えようと努力はしない。
「怠惰で愚かな民衆」。巨悪すらも彼らにとっては娯楽であり、今を思考停止したまま受け入れるためには必要だと肯定してしまう。
しかしそんな民衆の愚かさをまざまざと見せつけられながらも、心が一度折れながらも今を変えるために何度も立ち上がる怪盗団の姿は人々に勇気を与える。「世直し劇」とパッケージにも記されている本作だが、真の世直しとは少数の人間によってなされるものではなく、一人一人の認識そのものによって行われるべきとするこの結末と、その象徴であり先導者となる怪盗団の姿はヒーローであり、そして世界を良いようにも悪いようにも変えてしまうトリックスターだ。

奇抜なようでいて実は機能的に洗練されたデザインのユーザーインターフェースに、都会の雑多な情報を視覚的に落とし込んだ演出など、プレイしているだけで様々な発見に満ち溢れた本作が「2016年を代表するゲームの一つ」と語られるのも良く分かる。ゲームとしての表現を突き詰め、プレイヤーすらも騙し、一本の物語を演出し切った本作は「ゲームとしての表現を模索し、自分達なりの回答を提示して見せた」という点で間違いなく傑作だろう。
ここまでの作品を作り上げてしまったアトラスは何とも凄いメーカーである。

ところで番町の時より今回の主人公の方が色んな意味でヤバくないですか。
大企業の令嬢と今注目の読者モデルと検察官の妹とジャーナリストと天才女流棋士と教師と天才ハッカーなどなど九股かけられるんですけど。







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