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『Fate/Grand Order』アガルタの女はずるいという話

6月29日から配信された「亜種特異点Ⅱ 伝承地底世界 アガルタ アガルタの女」は何もかもがずるい物語だった。
アストルフォとシュヴァリエ・デオンのあざとい新規立ち絵に、物語の中核人物にまさかのフェルグス・マック・ロイの起用、「歪められた英雄達」という造形によってまさかの敵役となるフランシス・ドレイク達に、事前には全く存在していなかったのに本シナリオの活躍によって人気者になったレジスタンスのライダーなどなど、ずるい要素を上げ始めればきりがないが、個人的に一番ずるいと感じたのは「『この物語は語り部の語っている事実を元にしたフィクションであり、この物語を読んでいる時点でここに起きている出来事は全て過去の出来事である』という入れ子構造のシナリオになっている」という物語構造にある。この物語構造により主人公もマシュもアガルタの女に登場した全てのサーヴァント達も、そして主人公を通して作品世界にアクセスしている我々プレイヤーも全て「作品の登場人物」になってしまうのである。
思えば「アガルタの女」は随所で違和感を覚えるシナリオであった。
「黒幕の都合により歪められた英霊達」という設定が登場するが「どこまでが歪められたもので、どこからが本来の性質なのか」は分からないし、マシュの妙に感情的な発言の数々にプレイヤーに委ねられたネットスラングや下品さに溢れた露悪的な選択肢の数々にご都合主義的展開の多さ。これまでのシナリオでは絶対に見られなかったものだし、特にマシュの感情をむき出しにして黒幕に敵意をぶつけていく姿は読んでいてもずっと違和感しかなかったのだが、エピローグにおいて既に黒幕が召喚されている扱いを受けている事や「夜話団円」の四文字をもって終幕としている事を見てその違和感が意図的なものであることに気づく。
ああ、この「アガルタの女」は語り部が「伝承地底世界 アガルタ」という場所で経験した出来事を元に創作された夜話であり、「創作マシュ」と「現実マシュ」を同一視させないためにあえて過剰な反応をさせ、違和感を抱かせているのだと。
そう考えると全ての違和感にも納得がいく。妙にご都合主義的展開が多かったり、少年時代のフェルグスがあれほどの偉業を成し遂げたにも関わらずストーリー限定ガチャにも加わらなかったりするのも、この辺は語り部が創作しているがためだろうし、選択肢の露悪趣味的な数々も語り部の照れ男性に対する恐怖があるが故だろう。もはやこの辺はわざとやっていて、自分の事であるが故に語り部の照れが入るのも納得できる。終盤はもう完全に「救済されるべきヒロイン」なので、たまたまフェルグスが玉手箱を手にする下りは冷静に語っていられなかったという事でいいように思う。
さて、ではなぜこういう入れ子構造を採用したシナリオになったかというと、本作の語り部が入れ子構造の物語を創作したことで英霊になった存在だからだろう。
本作の語り部は不夜城のキャスターことシェヘラザード。『千夜一夜物語』の最も外枠に存在し、王に毎夜物語を語り聞かせる事で王の暴挙を止めた彼女について描く物語にした段階で、入れ子構造の物語になるのは当然の帰結だ。なにせ原典からしてそうなのだから!
『千夜一夜物語』の最後は王は倫理と寛容を獲得してシェヘラザードとの間に三人の子供を儲けたとされているが、本作においてはその辺りは「後世の人間によって救済として付け加えられた可能性が高い」と設定され、「飽きられた瞬間殺される」という恐怖の中で創作を続けた悲劇のヒロインになっている。そんな「死にたくない」という想いだけで戦ってきた彼女が「変化の理由」として語る物語「アガルタの女」はそれだけで価値がある物語ではあるのだが、こういう入れ子構造であるがために本作は「どこか一か所を抽出して語る」という事が極めてやりにくい。なにせ「全部で一つの物語」である。部分的な評価をするにせよ、「作中劇である」という事を前提にしなければならない。ミスリードさせるために積み重ねてきた序盤のアレコレと違和感を生じさせるためのアレコレに関しても作中劇であることを理解していなければ全て的外れになってしまう。加えてこの作品から何かを感じ取ってしまえば、それは全て「死にたくない」という感情以外持ち合わせていなかったシェヘラザードの変化の方に収束されてしまい、「アガルタの女」という物語を正しく受け止めている人間になってしまうのだ。
こうした構造であるために、本作は何もかもがずるい。あまりにもずるすぎる。
「面白い」と思ったにせよ「つまらない」と思ったにせよ、この作品に対して読み手が思った事や感じた事は全て「語り部の変化」に取り込まれてしまい、何の意味も持たなくなってしまうというのはもう無敵だ。好き/嫌いはともかくとして、入れ子構造を利用してあらゆる意見をも吸収してしまうこの物語は狡猾で悪辣だ。始めた段階ですでに時系列的には終わったシナリオなのもずるすぎる。絶対星空めておだろう、この話書いたの。他の人は物語構造だけでここまでの話はやらないわ。

余談。
不夜城のアサシン狙いだったはずなのに不夜城のキャスターが二枚出て困った。
ち、違う。いやお前が強いのは分かるが、お前ではないんだ……。キャスターでは負けない誓いはしているけど、アサシンが欲しかったんだ……。
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2件のコメント

[C1715]

劇中劇であることはつまらないことの言い訳にはならないと思います。

[C1716] Re: タイトルなし

「物語構造上『何を感じ取ったか』まで物語の一部に組み込まれてしまうのはずるいよね」という話なので、別に「つまらないことの言い訳をしている」というわけではないですよ。自分が「いやあ悪辣だなぁ」ということで楽しめてしまった人間であることは否定しないですけど。
  • 2017-07-07
  • 水音
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